コラムバックナンバー
メールマガジン2015年2月18日号より 真摯 いちしま泰樹
2013年に、私はこのメールマガジンで「経験と勘の棚卸し」という題のコラムを書きました。「経験と勘を、常に疑って仮説とするぐらいの意識が必要」という内容でした。
いまはどうかと言うと、もう少し厳しく捉えていて、積極的に自分の経験と勘を否定するようになっています。以前なら信じて疑わなかった内容やベストプラクティスも、「はたして本当にそうなのか」「それがベストなのか」「それはいまも有効なのか」と問うています。その先にあるのは、「検証」です。テストであり、トライです。Webサイトやその周辺のビジネスの改善に取り組む際、かつては、主要なターゲットユーザー像の一人として私自身を捉えたり、なりきることができました。周囲の多くの人がPCだけを利用し、利用環境やシチュエーションが皆似ていた時代です。Webサイトのカテゴリーもいまほど多様ではなく、自身を一般的なユーザー像に置き換えやすかったのでしょう。むしろ「私がネットユーザーの先輩格」という勘違いすら少し持っていました。
いまや、私とは異なるネットユーザーが周囲に多くいます。環境は大きく変わり、ユーザーは多様化しました。すでに私自身は、BtoBのカテゴリーならまだしも、多くのサイトのターゲットユーザー像としては明らかにマイノリティです。何種類もの端末を利用するようになったとはいえ、古くからPCを中心に利用する40過ぎの中年男性です。世の中にパラダイムシフトが起きているのは理解していても、思考や発想は完全にパラダイムシフトしていません。
スマートフォン端末しか持っていない学生や、最初の端末がタブレット端末の子供たちにとっては、「古い人たち」にしか見えないでしょう。
冷静にこの業界の経験年数で判断すると、おそらく私は「ベテラン」の領域に入ります。ドッグイヤーの世界ではもはや老犬で、アドバイスは独り言や遠吠えかもしれません。ベストプラクティスは昔自慢かもしれません。5年後10年後のインターネットは、いまの私の思考の文脈上にはきっとありません。
マイノリティがのたまう「こうだと思いますよ」という言葉なんて、怪しいものです。その考えは検証する必要がありますし、むしろ否定から始めるべきです。
そういった自覚を自分で持っていたいのです。ベテランの領域の人は、そこからスタートするべきだと思うのです。
ベテランの経験と勘は、かつて「知見」でした。いまや多様な「仮説」の一つに過ぎず、検証するに値するものです。仮説は、検証を、A/Bテストを、トライ&エラーを、すべきです。
自分の経験と勘の賞味期限は切れていないかどうか、なかなか自分にはわかりません。周囲に指摘する人が見当たらなければ、自身が疑ってかからないと、5年後10年後の役割や仕事はありません。
FacebookがWebビジネスに大きな影響力を持ち始めたのは2011年以降で、LINEがリリースされたのも、アドテクノロジー界隈がにぎやかになってきたのも同じ頃です。5年前の経験は、もはや使うに堪えないものがあるはずです。
ベテランの経験が生きるとすれば、チャレンジすることを厭わないことと、仮説や視点の多様さでしょう。分析手法も多様かつ高度になり、手軽に扱えるデータ量は爆発的に増えましたが、それらを実践で扱い続けていたのであれば、この先の変化に臆することはないはずです。
そういう意味でも、ベテランの頭に蓄積されていた知見や経験は、すべて「仮説の種」「仮説の持ち駒」として決して捨ててはいけません。いつでも引き出しから出せるようにして、それらを仮説として、使えばよいのです。
ベテランは自分の経験と勘を信じるな。常に検証を。
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