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ウェブの改善をどう進めるか、と議論をしていたある会議で、お客様の声を聞くのは大事だ、という話でまとまりそうになった時、一人が反論の石を投げ込みました。
「でもお客様の声を聞くな、とスティーブ・ジョブズが言ってましたよ」
突然、会議にスティーブ・ジョブズが顔を出したので、会議の空気はそこから、ぎくしゃくした雰囲気になりました。

さて、あなたはウェブの改善のために、お客様の声を聞くべきという意見に賛成ですか? それとも聞くべきではない、と言う意見でしょうか?


しかし、これはそもそも悪い質問の典型ですね。この質問にムッと来た方もいるでしょうが、「お客様の声を聞く」という取り組みは、○かxか、バイナリーで聞くような話ではありません。

スティーブ・ジョブズが言った言葉は、「消費者に、何が欲しいかを聞いてそれを与えるだけではいけない」というものだったと言われています。
私もジョブズに賛成です。過去、グループインタビューやアンケート調査に関わってきた経験から言っても、「どうしたらよいか?」「どんな機能が欲しいか」といった未来の改善案について、質問をしても意味がありません。
よく言われることですが、すべての機能をてんこ盛りにした製品ができ上がるか、今の延長線上でもっと性能の良い安い製品、という安易な答えになりがちです。

一方で、ユーザーを知る、という意味ではどうでしょうか?
その場合の質問は、どうして欲しいか、といった未来への質問ではなく、なぜ買ったのか?
どう思ったのか、といったユーザーの経験、この製品やウェブをどう経験し、何を感じたか、を聞く質問です。
これはある程度有効です。ただし、、、とここから今回の本論に入ります。

最近、小さなショップを支援する活動に取り組んでいます。その活動の中で、川村トモエさんとご一緒にする機会がありました。川村さんは、アクセス解析イニシアチブでも度々講演をしていただくコマースデザインの坂本悟史さんと、中小規模のECショップ改善に取り組んでいる方です。最近では、Googleの「イノベーション東北」の活動にも参加しています。
川村さんが最近出版した「マンガで納得! 売れるネットショップ開業・運営」という書籍は、今、僕にとってのバイブルとなっています。ウェブの改善やデータ解析に行き詰まると、いつも手にとって読み返します。小さなネットショップが対象の書籍ですが、大企業のサイトでも、B2Bのサイトでも活きるヒントが一杯詰まっている書籍です。

川村さんは、ショップの特集ページを作る時、ショップの店長にお客様の声を集めてください、というお願いをします。どうしてこの商品を買い求めたのか、その商品をどんなふうに体験したのか、そして、使った結果、食べた結果、どう感じたのか? という声を集めます。
しかし、この集め方は、通常よりも1歩も2歩も深く踏み込んだ聞き方をします。
ただ、「とても美味しかったです」という声ではダメで、どう美味しかったのか、美味しかったのは肉なのか肉汁なのか、とさらに具体的な声を求めて突っ込んでいきます。

こういった体験を通じて、ショップの店長は、作り手の思いだけを一方通行で伝える姿勢から、ユーザーの目線に立った姿勢へと、まさに180度変化していきました。

見事だな、と思ったと同時に、これは、お客様の声を聞く、というレベルの話ではなく、お客様の経験を、一緒に追体験する、取り組みだ、ということに気がつきました。

実は私自身も、お客様の声を、安易に聞いて、それをウェブ改善の議論の土台にすることには、抵抗があリました。
声の大きな意見、目立つ意見に引っ張られがちで、本来の改善とは別の方向に進んでしまう風景を何度か経験してきたからです。
しかし、ウェブにアクセスし、商品やサービスを使ったお客様の経験を、深く追体験するのであれば、話は違います。
データ解析、ユーザーテストと並んで、深いヒアリングを通じて、お客様の行動や気持ちを追体験する作業は、ユーザー中心のウェブを作る上では欠かせない取り組みだと感じました。

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