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活動報告
開催日時 | 2017/04/20(木) |
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会場 | 東京 汐留 |
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2017年4月20日、ベルサール汐留にてアナリティクスサミット2017が開催されました。「意思決定への顧客分析」というテーマのもと、約7時間半にわたって10名の講演者にお話しいただきました。300名近い皆さまのご参加をいただき、ありがとうございました。
このアナリティクスサミット2017の模様をお送りいたします。アナリティクスサミット2017「意思決定への顧客分析」
主催:アナリティクス アソシエーション(a2i)
協力:株式会社インプレス、Web担当者Forum
日時:2017年4月20日(木) 10:00~17:30
場所:ベルサール汐留
キリン株式会社 渡辺 尚武 氏
株式会社シナプス 村上 佳代 氏
左からシナプス村上氏、キリン渡辺氏
冒頭の基調講演では、キリンの渡辺氏とガイド役のシナプス村上氏から、キリンのデータ活用の考え方や組織の話、これからの展望などをお話しいただきました。
消費者向け低額商材(FMCG)の業界では、「コンバージョンが見えない」「購入までのカスタマージャーニーが短い」「商品が店頭に並ばなければいけない」など、状況把握の分断や生活者の反応が見えにくいといった壁が立ちはだかり、デジタルマーケティングの効果を評価するのがむずかしいとされてきました。
その中でキリンが取り組んだデータ活用の一つは、ブランド基盤を強化するために長期的関係構築の材料をそろえることでした。マスやリアル、デジタルのさまざまなデータを紐付けて効果測定と要因分析を行うことで、仮説作りのヒントにつながり、またPDCAを回すための手掛かりになっているとのこと。これはこの業界では大きな進歩だとします。
もう一つがデータ活用の基盤整備です。お客様との接点のデータ収集、統合、社外データの連携、ダッシュボード化、最適化といったDMP構築の全体像を紹介し、一つの「キリン」ブランドとして複数チャネルを統合した顧客体験を作っていきたいと展望を語ります。その中で、コンテンツポートフォリオの見直し、お客様にとっての興味のある情報や適切な接触頻度といった課題を挙げます。
組織面について、渡辺氏が統括するデジタルマーケティング部はグループ各社を事業横断でサポートする部門で、マーケティングとITを包含した体制になっているとのこと。俊敏性や革新性などに価値を置く「忍者型」の組織を目指しているといいます。
データ活用の取り組みを進めていく中で、お客様の心に響くための「仮説」が得られるようになったことが一番大きいとし、リサーチでは好反応でも実際の購入との乖離がある中で、その鍵を握る心が動くポイントをデータからつかみ取りたいと、渡辺氏は語りました。
株式会社LIFULL(旧 株式会社ネクスト) 久松 洋祐 氏
LIFULL(旧 ネクスト)の久松氏の講演は、2007年頃から現在までの不動産ポータルサイト「LIFULL HOME’S」における課題や具体的な取り組みを、時系列に紹介する形で進められました。一貫して目指しているのは「統合した顧客体験の実現」です。
2007年から2008年にかけては「統合へのチャレンジ」の時期だったといいます。それまでは各サイトの状況はレポートとして上がってくるも、全体のユーザーの動きが把握できなかったため、サイト解析ツールの統一導入を図るに至ったとのこと。導入に1年半、さらにデータがまともに見られるようになるのに1年半かかったが、そこから得たユーザー理解を踏まえて、サイト統合やテーマカラー統一などにつなげられたとします。
2009年にはカスタマージャーニーマップの構築に着手します。ユーザーインサイトから住み替えステージを分けてシナリオを設計し、ユーザーの住み替えに対する課題や感情、シグナルなどを言語化していったとのこと。1枚のシートに顧客のメンタリティをまとめられたのは大きかったと語ります。
2011年にはMMM(マーケティングミックスモデリング)を導入、これまで物差しが異なった短期獲得と中長期獲得を一つで捉えられるようになり、未来予測を踏まえた広告予算の最適配分を進められるようになったとします。その翌年には顧客接点ごとの相関モデルを構築して顧客接点を可視化、投資配分とリターンの変化を計測できるようになったとのこと。
2013年、カスタマージャーニーマップを4年の歳月を経て社内の共通言語にします。ワントゥワンの実現に向けてユーザーのペルソナを顕在化し、そのシナリオをCMやアプリ開発、オウンドメディア開発などに活用し始めました。2016年には、統合した顧客体験の実現のためオンライン広告をインハウス化、新たな顧客接点をつないだデータ統合や顧客体験の改善をさらに進めるようになります。
アナリティクスとデータで事業を加速させるポイントとして「経営戦略やミッション」を挙げ、現状を見ることだけが重要ではなく、会社が掲げるミッションやゴールを理解することの重要性を説き、セッションを締めくくりました。
株式会社イー・エージェンシー 野口 竜司 氏
ランチセッションでは、イー・エージェンシーの野口氏からダッシュボード活用とマーケティング実験の取り組みを紹介いただきました。
まず、ダッシュボード活用のポイントはセールスの可視化、サイトパフォーマンスやボトルネックの可視化、顧客の可視化にあるとします。特に顧客の可視化は、第三者オーディエンスのデータ取り込みからユーザー像の把握がしやすく、その可能性の大きさを指摘します。
最近リリースされたGoogleデータスタジオの概要や多様な利用例を紹介しながら、ダッシュボードはビッグデータを人間が解釈しやすくする有効手段であり、意志決定を加速する役割を持つと説明します。
続いてマーケティング実験によるイノベーティブな意志決定の話に進めます。「マーケティングの成功は毎日どれだけ実験ができるかにかかっている」というAmazon.com創始者ジェフ・ベゾス氏の言葉を引用し、その対極にある大規模実験に伴うリスクヘッジとのバランスを取るのがマーケティング実験であるといいます。より大きな実験が可能になった「深さ」の面、オムニチャネルかつマルチデバイスの領域で可能になった「広さ」の面、それぞれの面に拡張したマーケティング実験を可能にするのがOptimizely X Full Stackの技術であるとその有用性をアピール、いくつかのサイトでの事例を紹介します。
また、高価値ユーザーをセグメントして施策を打っていく事例を紹介しながら、従来の全ユーザー一律の施策投資ではない、重点セグメントへの施策投資の重要性を説き、ダッシュボード活用とマーケティング実験の組み合わせがそれを可能にするとして、セッションを終えました。
株式会社TSUTAYA 大畠 崇央 氏
午後最初のセッションでは、TSUTAYAの大畠氏から、TSUTAYAが取り組む1to1マーケティングとその背景にあるデータとUXの視点についてお話をいただきました。
TSUTAYAではお客様一人一人に向けたライフスタイルの提案を行っていますが、1to1マーケティングの前に単純なセグメントも難しいという話から始まります。そこから1to1のレコメンドに必要なデータベース構築の話を経て、意志決定の話に移ります。
意志決定として3つの方法を挙げました。一つ目が意志決定を皮算用するというもの。エクセルで作成した皮算用シートを紹介しながら、投資の費用対効果が視覚化されて1%の変化の重みを改めて問います。二つ目には自動化を挙げました。自動最適化ツール導入による判断なしでの最適化の例を挙げつつ、一方で人の手を介在したレコメンドの方が評価がまだ高いという課題も指摘します。
三つ目として「UXを考える」を挙げました。アクセス解析ではデータという事実はわかるが「Why」がわからない、それをお客様に行動理由を聞いて考えていくのが「UX Analytics」だと大畠氏は語ります。ペルソナの仮想属性よりも実際の行動の方が重要で、顧客目線のサービス改善ではその行動理由が必要であるとし、その行動理由を考える手法の一つとして「Service Storming」を紹介しました。Service Stormingは、顧客役、データベース役、アプリ役といったサービスの各役割にメンバーがなりきってロールプレイするワークショップで、仕組みや感情、課題を共通認識できるメリットがあるとし、そこからの意志決定の速度も速くなるといいます。
最後に、データは「メガネ」で人の視野を広げてくれるがメガネだけでは何も見えない、何を見るかは私たち次第であるとして、意志決定が自動化されつつある中での私たちの役割を改めて観客に問いかけました。
株式会社ビズリーチ 冨里 晋平 氏
ビズリーチの冨里様からは、サービスとしてまた組織としてビズリーチをどうやって一つにまとめていったのかや、いくつかの改善の事例が紹介されました。
前半では、”One Bizreach大作戦”と題して戦略面、組織面、そして「こころを一つに」と意識面での統一を進めていった様子が語られました。まず、戦略面では追う目標を一つにし、いかに事業構造とKPIをシンプルにするかが図られたとのこと。ダッシュボードで全メンバーが主要KPIを把握できるよう整え、データという共通言語を持ったことが戦略面の統一の鍵だとします。
戦略に紐付く組織は、頻繁に変化していったといいます。絶えず変化する組織の中で、日常の情報流通の「血行」を良くすることを意識とのことでした。加えて、組織をまとめるにはミッションやビジョン、クレドといった意識面での統一が大事だとします。CM放映がターニングポイントだったと語り、それまでは組織ごとの目標に向かって現場はがんばるもののうまくいかず、CMという一つの方向性の提示が会社を一つにまとめるきっかけになったといいます。
後半では、冨里氏が関わったプロジェクトでの改善例が紹介されました。メールによるユーザアクション喚起の改善、メール開封面の改善など、ユーザー行動を元にした細かなセグメントやあくまでユーザーの課題解決を意識することの重要性、単一のマーケティング施策で改善しようとするのではなくその受け皿であるプロダクトの改善も必要であることなど、経験から得た事例が語られました。
事業やサービスをグロースさせるには、いかにサービスや事業を一つにして目標や経営資源を一つにフォーカスするか、またいかに周りの組織を融合して巻き込んでいくかが鍵だとし、結局はヒトの強い意志、加えてそれを支える会社のミッションやビジョンの重要性を挙げ、セッションを締めくくりました。
株式会社Ptmind 笠原 勝幸 氏
続いてPtmindの笠原氏による、データとチームをつなげる必要性をテーマにしたセッションでした。
同じ企業であっても、立場や所属が異なれば視点や言語が異なってきてしまいます。たとえ同じデータを見ていても、見る人によって違う視点になり、洞察も変わってきます。これを笠原氏は「同じ塔を建てようとしているのに、人によって言語が違う『ビジネスのバベル化』が起きている」と表現します。
必要なのは共通言語であり、すべての人が持つ専門性とインサイトを見つけ出す視点を、データ共有から引き出さなければいけないと「データの民主化」「シンプルなKPI」の重要性を指摘します。
データを共有し、そこから活発なコミュニケーションを引き起こして全体のビジネスへの理解を習慣化させることで、アクショナブルな組織に向かわせられるのではと語りました。
そしてそのデータ共有はより皆がシンプルに扱えるべきと、ダッシュボードツール「DataDeck」を簡潔に紹介し、ブリーフィングセッションを終えました。
オイシックス株式会社 池山 英人 氏
オイシックスの池山氏からは、これまでの良くない方向に進んでしまった指標作りの事例を取り上げて、事業を成長させる指標づくりを指南するというお話をいただきました。
まず、良い指標とは事業を成長する方向に向かわせるものであり、反対に悪い指標は判断を誤らせて活動を事業成長ではない方向に導いてしまうものとし、これまでの悪い指標のエピソードを5つ紹介しました。
1つ目のエピソードは「計測地点が浅すぎた」というもの。プロモーションチャネルの評価を行い適切な投資先を見つけるというものでしたが、当初は会員獲得単価だけで判断してしまい、その結果LTVの悪化を招いてしまったとのこと。浅い評価地点だけでなく、その後の注文頻度や購入単価の変化も考慮しなければならないという反省材料を得ました。
2つ目のエピソードは「計測期間が短すぎた」というもの。リアルで集客した層とネットで集客した層の売上比較で、従来の8週間の判断では獲得当初の売上が大きいリアル集客層の方を高く評価していたが、26週間で評価してみるとネット集客層の方が大きな売上を挙げていたという事例です。
3つ目のエピソードは「副作用の考慮漏れ」。「定期ボックス」というオイシックス独自の提案商品があり、その初期設定単価を上げれば売上が上がるのでは?と施策を展開して良好な結果を出していたところ、その後に解約率が上昇していることが判明した事例です。マーケターは作用ばかりを見たがるが、必ず副作用が起きることを覚えておかなければいけないと指摘します。
4つ目のエピソードは「指標の分解不足」。ランディングページのCVRを改善するプロジェクトで、当初はランディングページの改善ばかりに注力していたが、あるときフォームからの購入完了率に注目をし、購入フォームをランディングページに組み込むなど行うことでCVRが改善した事例を紹介。そこからさまざまな場面で中間指標やKPIのブレイクダウンを行うようになったと語ります。
5つ目のエピソードは「本質課題を指標化できていない」というもの。「全体の注文率」を上げるために、低頻度の購入層の注文率を上げようとインセンティブを付けたところ、今度は高頻度の購入層がそれを知って頻度を低くしたり反発を招いたりなどネガティブな反応が起きてしまったという事例です。その後、全体の注文率ではなく「高頻度購入層の人数」に指標を変更するに至りましたが、課題をうまく指標に落とし込めていなかったという反省を得ました。
ネガティブなエピソードを紹介した上で、池山氏は「データはお客様の営みの結果と心得よ」とし、その施策でお客様がどう行動するかを想像してあらゆる影響範囲と期間をスコープに入れよと熱く語ります。また作用に加えて副作用も把握し、事業の本質的な課題を推進しているかどうかのチェックが常に必要であると、経験から得たポイントを挙げてセッションを終えました。
アクサダイレクト生命保険株式会社 上田 哲也 氏
データマーケター 内野 明彦 氏
左からデータマーケターの内野氏、アクサダイレクト生命保険の上田氏
アクサダイレクト生命保険の上田氏とデータマーケターの内野氏からは、真のユーザー像を元に「個客」分析を行った事例が詳細に語られました。
従来のCookieベースのアクセス解析ではマルチデバイスのユーザーの行動は分断され、「個客」単位での最適化がむずかしくなり、また判断も誤ってしまいます。これを解決するためにアクサダイレクト生命保険では、資料請求や顧客情報登録、ログインといったサイト上のポイントで識別IDを付与、その後にCookieをまとめる処理を行うことで、個のユーザーの過去行動もある程度紐付けられるようにしました。
そうやって「個客」データにすることで定量の視点でカスタマージャーニーを捉えられるようになり、ビジネスインパクトの可視化や課題の優先順序づけ、まったく新たな課題の発見につながったと上田氏は語ります。
そこから、個客ベースのWeb広告のアトリビューション分析の取り組みを紹介、従来の広告アトリビューション分析は実は最適化ではないのでは?というところから、広告の金銭価値化を進めました。その分析から、これまで初回訪問から申し込みまで8時間かかっているとしていたものが、実際は40時間以上検討していることが判明、従来まで大きく過小評価していた広告キャンペーンの発見につながります。他にも想定以上の複数デバイス利用の状況がわかるなど、その後の施策に大きな影響を与える分析結果を得られたとします。
内野氏は、個客分析を行うことでカスタマージャーニーマップの定量化からのPDCAが現実になってきたと語ります。短期視点での施策効率化が限界になりつつあり、個客分析がそれを打開する攻めの分析になるのではと指摘、ユーザーの固有性を含めた分析やマーケティングオートメーションなどへの展開に進めたいと、今後の展望を語りました。
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