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イントロ

小さな会社の支援をしていると、やることはわかっていても進まないことが本当に多いです。理由はほぼこの3つ。

  • わからない
  • 忙しい
  • お金がない

簡単に言えば「やりたくない理由を言い換えている」だけなんですが、ここを突破しないと何も始まりません。SEOがどうとか、GA4がどうとか、SNSがどうとか、いかにもウェブマーケティングっぽい話はずっと先の段階のことです。

これをどうやって解決していくかを説明します。

採用のためにSNSを始めよう!という提案の場合

例えば採用に困っている会社に「SNSをやりましょう!」と提案しても、返ってくるのは「やったことがなくてわからない」「忙しい」で終わりです。しかも相手はこんなふうに考えています。

  • 投稿すると炎上する
  • 投稿すると変な人に絡まれる
  • 役立つことを投稿しないといけない
  • 投稿する内容が分からない
  • 投稿する時間がない
  • そんなもので成果は出ない

だったら「やらなくていいじゃないか」と思ってはいけません。採用で困っているという問題を解決するためにSNSを提案しているのですから、投稿して成果が出るところまで伴走する必要があります。
注意点として、東京のそこそこの規模の会社のように「上からの指示で予算も期日も決まっている」ということは、小さな会社ではほとんどありません。やらなくても日常は過ぎていきます。だからこそ工夫が必要になります。

DMAICで解決

DMAIC(ディーマイク)って何ぞや?という人のために、私の一方的な師匠である衣袋さんの記事を紹介します。

DMAICはざっくり言ってしまえば、データに基づくプロセス改善手法のことで、Define(定義)、Measure(計測)、Analyze(分析)、Improve(改善)、Control(管理)という5つのサイクルで改善活動を行なおうという考え方のことです。

【メルマガコラム】データに右往左往する豊洲移転問題に学ぶべきは「DMAIC」の考え方 – コラムバックナンバー – アナリティクス アソシエーション

難しそうに聞こえますが、要は「きちんと順番を決めて進める」だけ。これが小さな会社の「進まない病」に効くんです。DMAICの流れに当てはめるとこうなります。

1. Define(定義)

「投稿ネタが思いつかない」「炎上しない投稿がわからない」「そもそも操作がわからない」「社用スマホがなくて個人だと嫌だ」など、その人たちが困っていることを細かくヒアリングします。ほんの些細な理由で詰まっていることが多いので、そこを定義していきましょう。

本音を引き出す質問リスト

「SNSやりたくない」の裏側にある本音を探るには、こんな質問が効果的です。

  • 「SNSで一番心配なことは何ですか?」
  • 「もし炎上したらどうしますか?」(→たいてい想像で怖がっている)
  • 「他の会社は何を投稿してると思いますか?」(→見たことない場合が多い)
  • 「今、会社のことを発信する場所はありますか?」(→実はない)
よくある「できない理由」マップ

技術面:「アカウントの作り方がわからない」「写真の撮り方が…」
心理面:「恥ずかしい」「批判されたら…」「反応がなかったら…」
物理面:「時間がない」「スマホが古い」「社内の許可が…」

これを整理すると、本当の問題が見えてきます。問うに落ちず語るに落ちる。聞きだすのではなくて、話してもらえば自然と出てきます。

2. Measure(計測)

次に「現状」を数字や事実で把握します。感覚や思い込みではなく、客観的なデータを集めることが重要です。

時間の実態調査

「忙しい」という言葉の裏にある実際のスケジュールを記録してもらいます。

1週間の業務記録から見えてきたこと(建設会社を想定)

  • 朝の現場巡回:毎日30分(写真5-10枚撮影)
  • 事務作業:1日平均2時間
  • 移動時間:1日平均1.5時間
  • 休憩時間:昼60分、午後15分
  • 会議・打ち合わせ:週3回、各1時間

記録を取ると「意外と隙間時間がある」ことに本人も気づきます。

既存リソースの棚卸し

すでに会社にある「SNSに使えそうな素材」を洗い出します。

日常業務で生まれているコンテンツ

  • 現場写真:月間約200枚(安全確認・進捗報告用)
  • 朝礼内容:毎日3分の社長スピーチ
  • 安全標語:毎月更新される掲示物
  • お客様アンケート:月5-10件の感謝コメント
  • 社内報:四半期ごとの社員紹介記事
現在の情報発信状況

SNS以外も含めて、会社がどこで情報発信しているかを確認します。

  • ホームページ:最終更新3ヶ月前
  • 求人サイト:Indeed、ハローワーク(月1更新)
  • 紙媒体:地域情報誌への広告(年4回)
  • リアル:現場の看板、車両ステッカー
競合他社のSNS活動実態

地域の同業他社5社のSNSを1ヶ月分調査します。

A社:週3回投稿、平均いいね数25、主に現場写真と安全朝礼の様子
B社:月2回投稿、平均いいね数45、社員紹介と施工事例が中心
C社:毎日投稿、平均いいね数10、「おはようございます」の挨拶投稿
D社:週1回投稿、平均いいね数30、施工のビフォーアフター写真
E社:月1回投稿、平均いいね数15、会社イベントの報告

こうして計測することで、現状が明らかになって感覚の議論から脱出することができます。

3. Analyze(分析)

集めたデータから、問題の本質と解決への道筋を見つけ出します。

「時間がない」の分析結果

  • 実際の隙間時間:1日合計45分は確保可能
  • 投稿作成の実測時間:慣れれば5-10分
  • 結論:時間は作れる。問題は別にある

できない理由の分析結果

  1. 意思決定の遅さ:「これ投稿していいかな?」で30分悩む
  2. 完璧主義:「もっといい写真を」「もっといい文章を」で進まない
  3. 評価への恐れ:「反応がなかったら恥ずかしい」で投稿できない

分析結果から仮説を立てるとこんな内容になります。

仮説1:ハードルを下げれば継続できる?

  • 最初の1ヶ月は写真1枚だけでOK
  • 文章は定型文でOK
  • 週1回投稿できれば合格

仮説2:見える化で不安が消える?

  • 他社も特別なことはしていない(データが証明)
  • フォロワー0人でも会社の記録として価値がある
  • 6ヶ月後の姿を数値で示す

仮説3:仕組み化で属人化を防ぐ?

  • 投稿担当者が休んでも続く体制
  • 写真提供者にインセンティブ
  • 月1回の振り返りで改善

あくまで仮説なので、この段階で担当者さんなどと話し合うことが大切です。「こんな仮説だからこれをやれ!」と言われても困るので、「調べてみたらこんな仮説があるのですがどう思います?」ぐらいから入りましょう。

データを扱う人ってそれが事実だと思って突きつけがちですが、事実を明らかにすることが目的ではなくて、他の目的があるのでそれを達成することを考えましょう。

4. Improve(改善)

原因が見えたら小さく改善。ここでのポイントは「いきなり大きなことをしない」です。

ステップ1:最小限からスタート
  • まずは「いいね」を押すだけから始める
  • 次に他社の投稿に簡単なコメント
  • 慣れたら写真1枚と一言だけの投稿
  • 最終的に自分の言葉で発信
ステップ2:成功体験を作る

小さな会社の経営者は「本当に効果あるの?」と疑っています。だから早めに小さな成功を見せることが大切です。

  • SNS投稿3回目で取引先から「見てますよ」とコメントがもらえる
  • 1ヶ月後に「SNSの表示回数やエンゲージメント数が増加」
  • 社員から「うちの会社もSNSやってるんですね」という反応

クライアントや社員の皆さんに直接聞いてみたりするなど、自分から反応を確認しに行くとうまくいきやすいです。待っててもユーザーの声は出てこないですから。

ステップ3:巻き込む人を増やす

最初は担当者1人でも、徐々に周りを巻き込んでいきます。

  1. 「今日の現場、知らない人から見るとすごいから写真撮って送って」と現場責任者に依頼
  2. 「新人さんの自己紹介、SNSに載せていい?」と人事担当に相談
  3. 「お客様の声、SNSでも紹介したい」と営業担当と連携

あとは担当者さんを褒める。とにかく褒める。ちょっとしたことでも褒める。

今までできてなかったことができるようになったのだから当然ですよね。世の中のほとんどのことは、気分さえよければ進んでしまうのです。

5. Control(管理)

改善が定着するまでが勝負です。多くの小さな会社が「最初の1ヶ月は頑張ったけど…」となってしまうのは、この管理フェーズを軽視するからです。

継続の仕組み作り(例)
  1. ルーティン化
    • 毎週月曜日の朝礼後5分をSNS投稿タイムに
    • 月末の会議で「今月のSNS反応ベスト3」を発表
    • 現場写真を撮ったら必ず共有フォルダに保存
  2. 役割分担
    • 担当者:週1回の投稿と方向性決定
    • 事務員:投稿の下書き作成とスケジュール管理
    • 現場社員:写真撮影と簡単な投稿
  3. 改善の見える化
    • 投稿カレンダーで「投稿した日」にシールを貼る
    • フォロワー数の推移をグラフ化
    • 問い合わせ件数を「SNS経由」でカウント

これを担当者さんとの定期ミーティングで確認したり、SNSの投稿を見てチャットなどで感想を伝えていくことがポイントです。誰かが見てくれているから続くことって多いです。

まとめ:DMAICで「できない」を「できる」に変える

小さな会社の「わからない・忙しい・お金がない」は、実は「変化への不安」の表れです。穏やかな変化でちょっとした成果を積み重ねることで、変化への不安がなくなっていきます。最も大切なのは「完璧を求めない」こと。60点でいいから始めて、続けながら改善する。小さな会社にはこのスピード感が一番合っています。

そして、DMAICを使うとこんな流れでいろんなことが解決できます。

  • Defineで本当の問題を明確にし
  • Measureで現状を正確に把握し
  • Analyzeで解決の糸口を見つけ
  • Improveで小さく確実に改善し
  • Controlで成果を定着させる

DMAICってデータ分析だけに使うと思っていた人は、日常の業務に置き換えてみるといろんなことが解決すると思いますので、一度試してみて下さいね。

コラム担当スタッフ

森野誠之

森野 誠之

運営堂

お膝元である愛知県を中心に地方のWEB運用を熟知し、主に中小企業を中心としてGoogleアナリティクスを利用したサイトの分析、改善提案やリスティング広告を用いた集客改善など、サイト運営の手伝いを行なっている。最新情報を押さえながら地方かつ中小企業向けのノウハウをわかりやすく説明できる数少ない人物。毎日発行されるWebマーケティング関連情報をまとめたメルマガ(毎日堂)は業界内でも愛読者の多い人気メルマガとなっている。

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