コラムバックナンバー
メールマガジン2016年11月24日号より a2i代表 大内 範行
米大統領選挙の結果が出ました。
民主党のヒラリー・クリントン候補は、純粋に獲得した票数 (Popular Vote) が多かったのに、選挙人の獲得数 (Electoral Vote)で負けてしまった5人目の大統領候補になりました。このコラムでは、二人の予測屋さんに焦点をあて、分析と予測について書いてみたいと思います。一人目は、以前このコラムでも取り上げた「シグナル&ノイズ」の著者ネイト・シルバーです。データサイエンティストの代表みたいな人ですね。
シルバーは大統領選挙の確率を統計的アプローチで予測します。基本的に各種の世論調査データに、変数で重み付けをして導き出していきます。2008年と2012年の大統領選挙をかなり正確に予測したことで、とても信頼感がありました。ここまで統計でわかるなら、実際に投票する必要はないよね、と冗談が言われたくらいです。
しかし、2016年の大統領選挙、ネイト・シルバーが予測をはずしてしまいました。今回、シルバーの事前予測は、ヒラリー・クリントンが 71.4% の確率で勝利し、トランプが勝利する確率は 28.6% というものでした。かなり豪快にはずしています。
二人目は、アラン・リヒトマンという大学教授です。アメリカ大統領選挙の予測について書籍も出版しています (ただ、アマゾンのレビューは1件もついてません)。
リヒトマンは、シルバーとは対象的に、トランプ勝利の予測を見事に的中させました。それどころか、彼は1984年以降のすべての大統領選挙を的中させてきたのです。
今回、米国の主要メディアで、トランプ勝利を予測したところは、ほぼありませんでしたし、ネイト・シルバーの71.4%という予測でさえ、「トランプよりだ」と批判されたぐらいです。その中でリヒトマンは、トランプ当選を彼が独自に編み出したアプローチで予測していた、数少ない一人でした。
リヒトマンの予測手法は、統計的な手法ではありません。データ分析をしている自分から見るとなんとも奇妙です。
彼の手法はとても簡単で、13個の質問に”True” か “False” で回答して、6つ以上がTrueだったら、現職候補が勝利し、True が5つ以下であれば、対立候補が当選する、というものです。13個の質問の一部はこんな感じです。
Q : 現政権(今回は民主党)の候補者選びは白熱しなかった?
Q: 現政権の候補は現職の大統領か?
Q : 第3の候補はいなかったか?
Q: 大統領選挙中に不況になったか?
Q : 現政権の候補は、カリスマ性がある、あるいは国民的なヒーローか?
これだけ統計がもてはやされている中で、本当にこれだけでいいの?と私は思わず首をかしげてしまいました。
13個の質問に重み付けはありません。世論調査のデータも使いませんし、世代や性別、地域の分析も、リベラルか保守か、という区分けもありません。
13の質問を通じて確かめるのは「現職の政権がホワイトハウスに残れるか?」というその点だけです。次の大統領を決める要因は、政治課題や政策論点でも、資金力でもマーケティングでもなく、現政権のパフォーマンスだけだ、とさえ言い切るのです。
こう考えることもできるでしょう。
データと統計は、投票する人々の感情まで読み取ることはできない。投票行動を決めるもっとも大きな要因は、現状に対する人々の不満や違和感であり、それはデータからは読み取れないと。
ネイト・シルバーは、今年6月に行われた英国のBrexit の国民投票も、予測をはずしてしまいました。人々の現状に対する違和感が、大きなうねりとなったとき、ネイト・シルバー的な統計手法は、役に立たないのかもしれません。
そして、一見公平性を欠くような、米国の大統領選挙の不思議な仕組みは、大都市以外の人々の感情を露わにする仕組みなのかもしれません。
ネイト・シルバー的なデータと統計を駆使したアプローチは、きっと今後も主流であり続けるでしょう。しかし、まったく対照的な、アラン・リヒトマンのアプローチについても、検討してみる価値はありそうです。
ネイト・シルバーの 予測
アラン・リヒトマンの予測についての記事
リヒトマンの書籍「Predicting the Next President : The Keys to the White House」
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