コラムバックナンバー
メールマガジン2014年2月18日号より 真摯 いちしま泰樹
この最近で、印象に残った記事があります。大手メディアなどでも紹介されていたので、ご存じの方もいらっしゃるでしょう。
「走れメロス」は走っていなかった!? 中学生が「メロスの全力を検証」した結果が見事に徒歩
非常におもしろいです。中学2年生の村田君が「おや?」と思ったところに探求心を持って検証し、自分なりの結論を出したという点に、素直に賛辞を送りたいと思います。
同時に、すでに大人になってしまった私たちの大半は、彼が疑問に思った箇所を見事にスルーした(するだろう)という点を恥じたいところです。「走れメロス」を読んだ学生時にも、そして先入観のようなものを持ってしまっているいまも、私はきっと「メロスは長い距離を死力を尽くして走ったのだ」と思いこんで、「走れメロス」を読んでしまうはずです。
先入観や思い込み、過去の経験や慣れなどは、恐ろしいものです。その前提の部分から検証しなければいけないのに、それを華麗にスルーしていては、根底から失敗しているようなものです。
前提を疑うこと。当たり前や慣れてしまっているものに、疑問を持つこと。
思い当たることがあります。ウェブの業界に長く携わっている人ほどその傾向があるように感じますが、どうしてもパソコンで業務を行うため、ウェブサイトを見るときもパソコンが中心です。クライアント様のビジネスを理解して分析する際でも、うっかりPC向けサイトを「主」、スマートフォン向けサイトを「従」のように捉えてしまいがちです。「マルチデバイスの時代ですよ、自宅でも私を含めて皆さん結構スマホでウェブを利用していますよね」と、お客様の前でしたり顔でしゃべっていても、です。
利用者の視点と運営する側の視点を、強制的にリセットして切り替えるぐらいの意識でいないと、前提を疑うところからスタートしないのでしょう。本当に気をつけたいものです。
さて、その「メロスの足取り」の件ですが、メロスは疾走したのでしょうか。確かに終日ずっと死力を尽くして走っていないかもしれませんが、まともな練習もなく、現代のマラソンランナーのようにベストコンディションで走れるものでもありません。アクシデントもありますし、道の状態もきっとよくないでしょう。重い荷物もやっかいです。
ここは一つ、机の上の検証に加えて、実地の検証も必要ということですね。村田君の将来がとても楽しみです。
ところで、100キロを24時間台で歩いたことのある私の経験から言えば、朝イチに出発すれば、徒歩で夕方前には40キロ地点に到着します。江戸時代に東海道五十三次を旅した人たちも、1日に10里(メロスが走る片道と同じ距離)を歩いたそうです。そう考えると、メロスの「疾走していない疑惑」は少し強まりそうなのですが、はたして。
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