コラムバックナンバー
メールマガジン2013年12月17日号より a2i代表 大内 範行
今年の年末は比較的長いお休みを取る方も多いでしょう。この機会にまとまったデータ分析や統計の書籍を読みたい、と思っているなら、私は『シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」』をおすすめします。
「シグナル&ノイズ」は、マネーボールのデータ分析やアメリカ大統領選挙の予測に関わり、すぐれた実績を上げてきたネイト・シルバーによる書籍です。黄色い表紙の単行本594 ページと、分厚い書籍ですが、わかりやすく実例に富み、しかもこれまで読んだデータや統計の書籍の中でも、もっとも深い内容が書かれていると思います。お休みにじっくり立ち向かうには格好の相手です。
選挙の予測から、地震のような大災害の予測、真珠湾攻撃やテロの話まで、多岐にわたるデータ分析と予測にまつわる数々の物語の中で、ネイト・シルバーが「マネーボール」について語っている章があります。
マネーボールが脚光を浴び、私自身も書籍も映画も見ています。その物語を「新しいデータ分析の手法」が、「経験と勘のスカウト」と対立して、古いスカウトたちを倒す物語、と読んだ方も多いでしょう。書籍や映画、マネーボールに関連して語られるのは、そのようなわかりやすい二項対立の図式です。私も、そのような話と捉えていました。これで古いスカウトたちは、きっとお役御免になってしまうのでしょう。
しかし、現実はまったく違う結果になっています。マネーボールの舞台となったアスレチックスは、その後スカウトの人数も、そのための予算も増やしていて、むしろスカウトたちとその情報の重要性は以前よりも増した、というのです。
また同時に、ネイト・シルバーがデータ分析(PECOTA)を行って選び出した100人の有望選手と、スカウトが選んだ100人の有望選手の予測勝負についても書かれています。有望選手を選びだし、その6年後に実際どれだけ活躍しているかを比較してみたところ、スカウト陣が選び出した100人の有望選手の方が、15%高い勝利数をあげていた、という結果になったというエピソードが書かれています。
ここでシルバーは、データ分析対スカウトという二項対立ではなく、結局はそのハイブリッドが予測には有効で、むしろ最終的には人間が判断する数値化できない要素の方が大切だ、ということを語っています。
実はそれまでもスカウトは、データを無視していたわけではなく、多くの情報を駆使してスカウティングを行ってきました。マネーボールは、そこに出塁率など、それまで注目されていなかった情報の燃料を投下しただけで、依然、スカウトたちの数値にならない情報力は、変わらずに重要だというのです。
印象的な言葉があります。
「革新者というのは大きく考えると同時に小さく考える。新しいアイディアは、ほかの人が面倒くさがって取り組まない問題の細部に宿っているものだ」
この何年間かデータ分析の業界を泳いでいますが、うまくいっている組織と、そうでない組織には、どうもそれぞれに共通性がありそうだ、と常々思っています。
失敗している組織は、新しいスキル、ノウハウに長けている外部の人材に、丸投げに近いやリ方でまかせようとしています。一方で、うまく行っている組織は、必ずその世界の営業やビジネスの本場を経験したリーダーがチームを引っ張っています。
失敗している組織は、それまでになく大きく予算を取る一方、一回の失敗で、もう二度とコンサルや外部の人材には頼らない、と愚痴を言っています。一方、うまく行っている組織は、失敗を率直に語り、限られた予算の中で何度もトライをしています。
そして、うまく行っている組織のリーダーは、シルバーが言っていることを実践しているように見えます。大きく考えると同時に小さく考える。そして、細部を根気よく追求する。
データサイエンティストやビッグデータが脚光を浴びるからといって、今までのチームや人材を無視してまったく新しい一過性のプロジェクトを起こしても、本当に大切な細部には辿りつけないでしょう。
マネーボールの主人公ビリー・ビーンも、自分自身が将来有望な選手として野球界を、挫折とともに生きた人間です。苦しみもがきながら細部を追求していった結果として、マネーボールの物語が有り、それは今でも続いているのでしょう。
データや統計が脚光を浴びる中で、本当に大切なものは何か、分厚い書籍に浸りながら、そんなことを考えました。
ネイト・シルバーの書籍は、次の2014年に向けて、よい燃料投下になると思います。
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