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今週は書籍の紹介です。
政治とデータの書籍「情報参謀」を読みました。新書で読みやすく、それほど時間はかかりません。具体的な図表もあります。
この書籍「情報参謀」は、自民党が2009年に野党に下ってから、政権を奪還するまでの4年間を描いています。その4年間で、いかにデータや情報を活用してきたか、そのことが書かれています。政治とデータ分析の物語としては、米国の事例が有名です。ネイト・シルバーの話 (「シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」」)や、オバマ大統領の大統領選挙キャンペーンでダン・シロカーがA/Bテストを活用した話(「部長、その勘はズレてます! 「A/Bテスト」最強のウェブマーケティングツールで会社の意思決定が変わる」)が有名です。
今回のご紹介する「情報参謀」は、そのどちらとも違います。乱暴にまとめると、野党になり極端にメディアの取り扱い量が減った自民党の露出量を増やすために、どうデータを活用したかが書かれています。

具体的に活用したデータは、テレビで扱われた情報データと、ネットの口コミ情報です。
テレビの情報については、株式会社エムデータが収集します。これは極めてアナログに集められたデータで、人間がニュース番組をずっと見て、何の話題がどれだけ取り扱われたかをデータベース化しています。
もう一つは、ネットの口コミデータで、株式会社ホットリンクが2ちゃんねるを含むネットの情報をテキストデータ中心に収集しています。
書籍全体を通して語られる作業は極めてアナログです。機械学習などというおしゃれな話は、1ミリもありません。ひたすら人間が徹夜をしながらレポートを出し、外れ値の除去も含めて、極めてアナログにデータが収集され、分析されていきます。

目的が自民党の政権奪還で、そのための露出量増加という戦術ですから、通常のビジネスのデータ分析と違っている点もあります。
一つは明確なコンバージョンがない点です。米国大統領選挙にあったような「寄付」や「集会参加」などのコンバージョンがありません。従ってA/Bテストもありません。どういった話題がどの程度の量と割合で増減したかを分析しています。たとえば、サッカーのワールドカップがはじまると、政治や自民党関連のトピックが極端に減ると予想されます。そこで、ワールドカップの試合中に自民党のCMを出して露出量を確保した、といったことが行われています。
二つ目は、明確な競争相手(当時の民主党)がいた、ということです。従って情報分析も、当時与党であった民主党に対して、どう露出を増やすか、という点に主眼が置かれています。普天間基地の移転問題が、息の長い政治トピックになりそうであれば、そこを集中的に攻めて、政治家たちにコメントを出してもらい、露出量を効果的に増やしていく、ということが語られます。

従ってデータ分析のスタイルとしては特殊です。それらの部分は、企業のデータ分析とは違うかもしれません。
しかし、それでもこの書籍はおすすめできる、と感じました。なぜならデータ分析の結果をどう伝えるか、というコミュニケーションの工夫が多く書かれているからです。
データ分析が自民党の片隅でひっそりとはじまり、やがてプロジェクト化され、その後広がりを見せて、継続的に党内で活用されるまで、この書籍はその課程を大きく4つのフェーズに分けて、生々しく書いています。

もちろん政治家にも、データの重要性がわかる人はいます。こうした特殊なプロジェクトというのは、だいたいそういった人が組織の一角でゲリラ的に立ち上げます。しかし、そういった一握りの人の興味では、インパクトのあるアクションにはつながりません。徹夜を重ねたレポートも、「面白いね」で終わってしまっては意味がありません。
政治家という極めて政治的で、時間がない人間を相手に、アクションにつながるデータ分析結果を伝える。その試行錯誤のプロセスが、企業の現場にも参考になると思います。

私なりに感じたポイントは、キーマンとのコミュニケーションを増やし、一緒に考え、シンプルなアクションに落とし込むプロセスを継続的に取り組んでいくことだと感じました。週1のレポートが、毎日のレポートになっていき、リアルタイム性が増していきます。
そして、多くの泥臭い試行錯誤を通じて、分析力の向上とチームの改善は、一緒になって成長し、達成されていきます。私は本を閉じた後、この書籍に書かれていない、データ分析とその試行錯誤に取り組んでいた多くの人たちに思いを馳せました。

「情報参謀」小口日出彦 講談社現代新書

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