コラムバックナンバー
メールマガジン2016年3月16日号より 真摯 いちしま泰樹
アナリティクスの領域に関わっている人たちには、ロジカルシンキングの人が多いと思います。私もおそらくそうでしょう。分析をする際や提案をする際には、論理的に体系立てて伝える内容を組み立て、根拠もそろえます。ビジネスをする上では重要な思考法です。そのロジカルシンキングの人が少し先の未来を考えるとき、どのようにするでしょうか? 情報をそろえ、これまでの経緯や経験を踏まえ、周囲の時流を把握し、「このように動いていくだろう、変化するだろう」と予測すると思います。私もそう進めます。
一方で、そろえた情報は「把握すべき全体」のほんの一部にすぎず、予測や判断も属人的です。予測した未来が実際にそうなる可能性は、往々にして高くありません。
最近読んだ書籍『未来に先回りする思考法』(佐藤航陽著)に、このようなくだりがあります。
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現代社会の意志決定の場において、ロジカルシンキングはとても重要なスキルです。社内で新規事業のプレゼンをする場合や、経営者が投資家に事業案の説明をする場合、一定の論理性なしに同意を得るのは難しいでしょう。
しかし、ロジカルシンキングは、他人を説得する際には絶大な力を発揮する一方、物事の成否を見極めるには、実はそれほど役に立ちません。
(略)
ロジカルシンキングには、すべての情報を得ることができないという「情報」の壁と、意志決定者が持つ「リテラシー」の壁というふたつの障壁が存在します。
問題は、そのふたつの壁を認識しないままに、自分たちに認識できる現実の範囲を「全体像」と捉えてしまうことです。ロジックを構築する土台となる材料自体が不正確さを含んでしまっているので、しばしば人間の将来に対する認識はあっさり裏切られてしまいます。
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おもしろい指摘です。確かに「特定の課題改善」の取り組みでは関与する要素を把握できることが多く、フォーカスを絞って判断できるので「解決」に向かわせやすいです。
一方で、例えば10年先に向かってどう進めば良いかを考える際、調査と議論を重ねてもその判断には確信を持ちにくいものです。コンサルティングの現場でも、そのように切に感じます。
数歩先の未来であればロジカルシンキングでも見えるかもしれません。しかし10歩先を考えるのであれば、「論理の飛躍」が必要なのでしょう。しかも、確実性の高い論理の飛躍です。ロジカルシンキングの脳みそには少し難しい思考です。
「これまでの経緯からだとこう進むだろう。しかし他業種がこう進むかもしれない、こういう発明が起きるかもしれない、この領域は機械やAIに置き換わるかもしれない、こんなことは当たり前の世の中になっているかもしれない」などなど。
書籍ではこの後、「一定の論理的な矛盾や不確実性をあえて許容しながら意志決定を行うことで、未来へ先回りできる」と続きます。私は自分の人生においてのみ「根拠のない自信」を発動させますが、ときにビジネスにおいてもそれが必要だということです。
引き続き求められるのは「知識」でしょう。知識の深さは必要な際に深掘りできますが、知識の幅は意識していなければ獲得できません。年を重ねてもさまざまなことに興味を持ち、経験していく心構えが必要です。
加えて大事なのは「異なる要素を組み合わせる能力」でしょう。「確実性の高い論理の飛躍」は、関わりそうなシナプスをいかにつなげるかにかかっているように感じます。
マーケティングは「過去データの分析」から「予測分析」に少しずつ移っています。やわらかい脳みそでいたいものです。
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